今回も中級編として続きを書いてみたいと思います。
「サスペンションとは!」中級編-Part3
ネタを何にしようか迷ったんですけど、反力系をお送りします。
初級編でスプリング反力の概念をお伝えしたんですが、もう少し掘り下げて解説してみたいと思います。
6.反力系の計算方法と考え方
1).スプリングレートとは!
スプリングレート(ばね常数)とは初級編でも少し触れましたが、スプリング反力特性の傾きを表わしています。
一般的なコイルスプリングでの考え方は下記になります。
コイルスプリングに変位xを与えた時に反発する力Fが発生します。
ばね常数
この力 即ちが、ばね常数 となります。
このばね常数は綺麗な比例定数となります。
ばね常数測定概念も含めてもう少し分かり易く説明して置きます。
葵スプリング 圧縮コイルバネより引用
自由長Hoからばねに荷重を掛けてばねを撓ませた時、H2にばね反力P2が発生するとした場合のばね常数は下記の式で求められます。
ばね常数
但し、厳密に言うとこれでは正確なばね常数にはならないんです。
それは自由長から数mmまでがばね端末処理の関係で特性が寝てしまいます。
この部分をキャンセルして正確さを出すため下記の式で求めるのが一般的です。
ばね常数
このH1及びH2の測定箇所は、全撓みの30~70%の範囲内で行うことになっています。
撓み量について
図の中に密着高さとなっていますが、クルマやバイクに使用されるコイルスプリングの場合、スプリング自体の許容応力を超えてしまうため密着まで使えません。
想定される繰返し回数から許容応力を勘案して最大撓み量(ストローク)を設定します。
2).イニシャル量と車体姿勢について
スプリングレートの考え方を理解したら、まずはイニシャル量と車体姿勢についてです。
Fig.2
初級編で使った図ですが、左側がイニシャル量を変化させた場合の特性変化です。
黒を基準としてイニシャル量を上げた場合が赤で、イニシャル量を下げた場合が青となります。
ここで大事な事は、スプリングに掛かる1G荷重は車体の変更がない限り変りませんね。
前述の式を下記に置きかえて考えるとイニシャル量と1G位置の変化は等しい事になります。
1G荷重=スプリングレート×(イニシャル量+1G位置)
従って、車体姿勢に置きかえた場合はイニシャル量を変えると変えた分が姿勢変化となります。(注意してほしいのは、これはあくまでスプリング位置での話であること。)
ストラット式だとほぼロアアーム先端に近く、クッションとホイールのストローク量が近いので、そのまま車体姿勢変化と考えても構いませんが、リヤサスペンションなど、ロアアームの途中にスプリングをセットしている場合があり、この場合はロアアームの車体取り付け部から、クッション取り付け位置、ロアアーム先端アクスルハブ取り付け位置の各々の距離がレバー比として関係するのでイニシャル量≒車体姿勢変化とはなりません。
3).スプリングレートを変更する場合の考え方
単純にスプリングレートだけを変える場合(一般的な量産車)
これはスプリングレートの増減分(1G荷重変化)が姿勢変化になります。
これは先ほどの式の1G位置を に置き換えれば良いので
=1G荷重/Newスプリングレートーイニシャル量
車体姿勢をKeepしたい場合(イニシャル調整機構がついている事が条件)
これは先ほどの式のイニシャル量を1G位置に置き換えれば、必要なイニシャル量が計算出来ます。
=1G荷重/Newスプリングレートー1G位置
1G位置の計測について
クルマの場合はホイール上端からフェンダーアーチまでの距離等を測定して1G位置とすると良いでしょう。
但し、前述の通りスプリングの位置が重要なので、車体を見ながら大凡のレバー比として考慮の事。
4).スプリングの公差について
上記の通り計算しても、計算通りにならない場合が多いです。
それは一つにスプリングレートのバラツキです。
スプリングレートはクルマ、バイク等に使われる一級品に於いても、一般的に±5%前後の公差があります。
例えば、ここに8kg/mmと10kg/mmのスプリングが存在するとします。
8.0の±5%公差を考慮すると7.6~8.4となります。10.0だと9.5~11.5ですよね。
8kg/mmから10kg/mmに変更したつもりが、最大公差では7.6kg/mmから10.5kg/mmに変更した事になります。
あと、自由長も公差がありますので注意が必要です。
元のスプリングに対して自由長が短いと実際のセット長でのイニシャル量が少なくなり、1G荷重も下がってしまいます。
5).レースの世界ではどう対応しているのか
レースの世界ではイニシャル量とスプリングレート変更はセッティング範疇です。
従って、スプリングは全数測定して、小数点2桁くらいまで管理。
イニシャル量は自由長をゼロとしてイニシャルアジャスターで正確に設定します。
この辺りは極限の世界でのお話なので、ここではこの辺りにして置きます。
またレースの世界は機会を捉えてお話出来ればと思ってます。
逆に一般的な量産車では、スプリング公差をバラツキとして肯定して上下限品で確認してますので、ここまでは深く考えなくても良いかも知れません。
ここはsusmaniaというマニアックなブログなのでちょっと細かいところまで突っ込んでますけど…(>_<)
さて、今回は反力系を解説させて頂きましたが如何だったでしょうか?
次回は減衰力の測定方法などの解説をさせて頂こうかと考えています。
kazySUS