ちょっと記事更新の間が空き過ぎましたが、今回も上級編として引き続き、2輪車のフロントサスペンションを解説してみたいと思います。2023.10.27一部改訂しました。
「サスペンションとは!」上級編Part3
前回はカートリッジタイプの基本構造について学びましたが、今回は続編としてカートリッジタイプの性能進化についてをお届けしたいと思います。
4.カートリッジタイプの性能進化とは!
カートリッジタイプもカートリッジ内部だけではなく、カートリッジ外の構造も有効に使って性能向上を図っています。
今回はそんな中からカートリッジ外の固定減衰という概念をご紹介します。
1).スプリングレイアウトによる固定減衰と位置依存という考え方について
オーソドックスなカートリッジ構造ではスプリングレイアウトは上置きとなりますが、これを下置きにした場合にはフロントフォークとしてどのような変化が起こるのでしょうか。
ロードレースの場合、オフ系のモトクロスなどと比較すると常用ピストンスピード域が圧倒的に低いです。
モトクロスの場合にはピストンスピードが最大で2m/sを超える事もあります。
ロードレースの場合は最大でも0.5~0.7m/s程度で、切り返しとブレーキングを除けば0.1~0.3m/s辺りが常用域と考えて良いと思います。
この比較的低速域に於いて重要なのがフリクションを含めた固定減衰です。
ただフリクションを減衰力として利用する場合は動摩擦と静摩擦のコントロールが難しく、経時変化も含めて性能を安定させにくいです。
そこで目を付けたのが、円環流路を利用した固定減衰という考え方です。
具体的にどう利用しているのか見ていきましょう。
Bikers Station 2019年12月号 P32 / P26より引用
左側:スプリング上置き、中央:スプリング中間置き、右側:スプリング下置きの各レイアウト
右側のみ最新システムですが、ご容赦願いたい。
スプリング上置きレイアウト
まずはオーソドックスなスプリング上置きレイアウトですが、カートリッジ上部に付いているスプリングジョイント(スプリングを直に受ける部分)には円周に十分な隙間を開けています。
これは圧側、伸び側共にロッド体積変化分のカートリッジ外側のオイルとスプリングジョイント上部間のオイルの行き来を阻害しないようスムーズに通過させることで流路抵抗とならないようにしています。
スプリング下置きレイアウト
近年、高性能を求めるレース専用フロントフォークではこのレイアウトが主流になりつつあります。
何が変わるのかと言うと前述の固定減衰とそれに付随した位置依存性を得やすい構造と言えます。
スプリング上部のスプリングジョイント、そこに結合したスプリングカラーをセッティングパーツとして活用しています。
では具体的にどう活用しているのでしょうか。
上図がスプリングジョイント周りを拡大した断面の略図です。
スライドパイプ内側とカートリッジ外筒で仕切られたオイルはフロントフォークが圧工程でストロークするとスプリングジョイントを通過してスプリングジョイント上部に流れます。
スプリングジョイントはスプリングを受ける役目なのでスライドパイプの内側を摺動しますが、外周に切り欠きを入れる事でオイルが流れるようにしています。
この時にスライドパイプ内側とスプリングジョイント外側との円環+切り欠きが流路抵抗となり減衰力が発生します。
分離加圧でないカートリッジの場合はこれにカートリッジ下側からカートリッジ外に排出されるロッド体積分のオイル変化が加味されます。
合わせてスプリングジョイント内側とカートリッジ外側の円環流路でも同様に減衰力が発生します。
伸び工程では逆に流れますが、いずれも同様に減衰力が発生します。
基本的に流路を規制されて発生する減衰力はピストン速度(VP)に依存しますが、この円環流路で発生した減衰はほぼ一定値に近い特性となります。
この円環流路抵抗で発生する減衰力は、ほぼ一定値に近い特性であることから固定減衰と呼びます。
それからスプリングジョイントに結合したスプリングカラーの内径を小さくするとどうなるのでしょうか?
先ほど説明した通り、スプリングジョイントを通過したオイルはスプリングカラー外側とスライドパイプ内側で仕切られた部屋に流れる一方で、スプリングカラー内側とカートリッジ外側で規制された円環流路を通って、カートリッジ上部にも流れます。
ここで重要なのがスプリングカラー内側とカートリッジ外側で規制された円環流路なのですが、この円環流路には位置依存性が出ます。
フロントフォークがストロークしている量により、円環流路で絞られている長さが変わります。
ストローク量が多いほど、絞られている距離が長くなるので、発生する流路抵抗(減衰力)も大きくなります。
これがスプリングカラーによる減衰力の位置依存となります。
この二つはコースによるセッティングにはほとんど使用しませんが、フロントフォークのキャラクターを決める味付けにはかなり有効です。
それからもう一つスプリング下置きには、位置依存性の要素にスプリングの線間による流路抵抗もあります。
ご存じの通り、スプリングって縮めるとスプリング自体の線間が狭くなります。
スライドパイプ内側とカートリッジ外部で仕切られた空間にスプリングがオイルに浸かっている訳ですから、線間が狭くなれば、ここにも流路抵抗が発生する事になり、減衰力が発生します。
勿論ですが、こちらもストロークしている量で線間が変化するので、位置依存性が出ます。
これらの固定減衰により、減衰感が増してよりしっとりした動きが得られ易くなります。
この固定減衰と位置依存特性は圧側工程だけではなく、伸び工程にも重要な役割を果たしています。
スプリングを縮めるとそれだけ伸び工程でのスプリング反力は増します。
その伸び工程初期に低速域の固定減衰と位置依存減衰が付加されると伸び側の初期工程からしっかり伸びを押さえる事が出来ます。
伸び工程の初期から減衰力で抑えることが出来ると、その後のピストンスピードも抑えることが出来ます。
合わせて圧工程、伸び工程共に切り替わり直後から固定減衰でしっかり抑えることでしっとりした動きになるという訳です。
しっとりした動きをざっくり分り易く言うと、デジタル的な動きからアナログ的な動きになる感覚って想像出来ますかね。
一つ一つの動き、それがより細かく滑らかになって高級感のある動きに感じ易くなります。
またこのデジタル的な動きからアナログ的なスムーズな動きというのが、レースの世界ではタイヤの接地圧安定化に大きく寄与するため重要な性能になります。
スプリングレイアウト中間置き
こちらは文字通り、下置きと上置きの中間にスプリング位置をレイアウトした構造となります。
スプリング位置とカートリッジ及び油面の位置関係で変わりますが、スプリング下置きの効果をストロークの途中から得る構造となります。
フロントフォークストロークの浅い領域ではカートリッジ内の減衰で持たせて、ストローク途中から固定減衰と位置依存性を活用しようと言う考え方です。
スプリング下置き及び中間置きのメリットはたくさんありますが、デメリットとしてはある程度のフォークサイズがないと成立しないことです。
ざっくり言うと、スラパイ外径で42~43mm以上ないとカートリッジサイズをキープした場合、スプリングがレイアウト出来ないと思います。
スプリングレイアウトだけでも、これだけ性能に影響するカートリッジ外減衰力が得られるって事を理解して頂ければ、今回のお話は終了です。
次回は主にオフ系でのカートリッジタイプの更なる進化について説明してみたいと思います。
kazySUS