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『サスペンションとは!』上級編

上級編と管理人自身で敷居を上げたせいもあり、暫くご無沙汰しておりましたが、上級編をお届けしようと思います。2023.10.27一部改訂しました。

「サスペンションとは!」上級編

昨年、12月に雑誌に於いて2輪サスペンションの特集が組まれた事もあり、2輪車のフロントサスペンションについて書いてみたいと思います。

1. 2輪車のフロントサスペンションとは!

2輪車の場合は自転車と同じく、フロントサスペンションをフロントフォークと呼ぶことが多いです。

ステム部分がついた状態だと確かに二股のフォークに見えますよね。
その中身の構造とはどんな風になっているか説明していきましょう。

1).2輪車のフロントサスペンション構造

フリクションダンパータイプ

もっとも古くから存在しているフリクションダンパー形式です。

文字通り、油圧機器ではなくグリス等を封入し、摺動による摩擦抵抗を利用したダンパーです。

今でも、廉価なスクーターとかには使われていると思います。

フリーバルブタイプ

フリクションダンパーの次に出てきた油圧機器のダンパーです。

今でも上級スポーツモデルを除くと、このフリーバルブ形式が一番多く使われていると思います。

カートリッジタイプ

こちらは主に上級スポーツモデルの倒立フロントフォークで採用されている構造です。

もちろんオフロード車とかトライアル車含めてレース専用車にも使われています。

その他性能追求型

カートリッジタイプの性能追求型として大よそ下記のものがあります。
・加圧カートリッジタイプ
・スルーロッドタイプ
・BFF(Brance Free Frontfork)
・電子制御式

でもって、上級編の初回は今尚現役で使われているフリーバルブタイプをご紹介したいと思います。

2).フリーバルブタイプとは!

フロントフォーク下側にあるシリンダーに開けた横穴(オリフィス)とインナーチューブ下側にあるフリーバルブで減衰力をコントロールするダンバーのことです。

フリクションダンパーの後に出てきた最初の油圧式ダンパーだと思いますが、今見てもよく出来てます。

フリーバルブタイプの凄いところは最初から圧側と伸び側の減衰力を異なる設定に出来ていることです。

こちらのお話は中級編でも少し触れましたが、圧側はスプリング反力が荷重としてストロークを抑える方向に働くので減衰力は低めに設定されます。

逆に伸び側はスプリング反力が減衰力に反発する方向に働くために高く設定する必要があります。

この条件をフリーバルブは機構上で最初から考えられているところが凄いんです。

それこそが現在でも使われ続けている所以でもあります。

でもって構造を少し紹介しましょう。

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Bikers Station 2019年12月号 P30より引用

フロントフォーク全体の構造は左側と真ん中の構造図を見て頂くとして、右側の圧側と伸び側の各室の圧力とオイルの流れに注目して下さい。

圧側工程ではフォークシリンダー外側とアウターチューブの間(ピンク)の圧力が上昇し、シリンダー下側のオリフィス(大径の横穴)からシリンダー内部を通りフォーク上部にオイルが流れます。
と同時にシリンダー上部(青)へ圧力差で開いたフリーバルブを通ってオイルが流れ、この二つの流路抵抗により圧側減衰力が発生します。

逆に伸び側工程ではシリンダー上部(ピンク)の圧力が高いところから、シリンダー上部に開いた狭いオリフィス(小径の横穴)からオイルが流れます。
と同時にシリンダー下部(青)には圧側と同じ大径横穴を通ってオイルが戻ります。

端的に言うと圧側工程ではフリーバルブ部の円環流路とシリンダー下側の大径横穴を使うため減衰力が低く、伸び側ではフリーバルブを閉じることでシリンダー上部の狭い横穴(オリフィス)のみを利用するため減衰力は圧側に対して高く出来る。

このフリーバルブで圧側と伸び側の流路を切り替えるってところがフリーバルブタイプのポイントですね。

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Bikers Station 2019年12月号 P31より引用

実際のオリフィスはこんな感じで圧側と伸び側の穴径の違いがよく分かると思います。

フリーバルブのメリット

構造が簡単で比較的安価な割に油圧機器としての必要なところを押さえている。

フリーバルブのデメリット

オリフィスで減衰力を発生させるため、減衰特性が2乗特性に限定され、スポーツモデルに求められる比例特性及び2/3特性が得られない。

構造が正立FRフォークに限定されるため、操舵系剛性を確保し易い倒立FRフォークでは使えない。

フリーバルブの進化版

でもって、最近はフリーバルブにもベンディングバルブを採用したSDBV(Showa Dual Bending Valve)なんて機構もあるようです。

ただこのベンディング&チェックバルブでも比例特性までで、2/3特性までは得られないと思います。

こうやってまだ進化するフリーバルブタイプは凄いと思いますね。

今回の上級編はここまでですが、その前に少し昔話にお付き合い下さい。

フリーバルブ vs カートリッジよもやま話

今を去ることウン十年前、まだレースの世界でもフリーバルブが全盛だった頃の、とあるモトクロス場でのお話です。

2日間のテストを無事終えたライダーとメカニックがモトクロッサーを前に2日間のテスト成果と今後の対応について話し合っています。

とそこに、とあるサスペンションメーカーの技術者二人が声を掛けます。

「無事にテスト項目は消化されたでしょうか?」

「もし宜しければ、こちらのフロントフォークをテストして頂けないでしょうか?」

そこに差し出された物とは真新しいカートリッジタイプのフロントフォークです。

熟成されたフリーバルブに対してカートリッジタイプはまだセッティングの初期段階なのでこうやって空いた時間にテストをするのですが…。

この技術者二人と現場セッティング用2トントラックがテストして貰えるかどうか分からない中で、テスト初日からずーっと待機しています。

もちろんテストもして貰えずそのまま成果も出せずに終わることも多いんですが、必ず実走行テストには立会います。

そしてテストが終ったとみるや前述の発言となります。

まだテスト走行時間も終了まで1時間ほどあるので、快諾してメカニックは前後クッションの交換作業に入ります。

ライダーがテスト走行し、フィーリングを細かくメカニックと技術者二人に伝えます。

「まだ、硬い路面での吸収性とトレース性に問題ありますね」とライダーが述べます。

すかさず技術者二人は「分かりました。次はその部分を更に改善して持ち込みます。」

「貴重なお時間にテストして頂きありがとうございます。」

こんな事が暫く続いた後、フリーバルブに取って代わったカートリッジタイプの全盛時代に突入する訳ですが、この頃にはまだまだ熟成されたKYB製フリーバルブには追いつけなかったんです。

最初にカートリッジタイプが威力を発揮したのはサンドコースだったと記憶しています。

これが所謂「砂のSHOWA」と言われたSHOWA製カートリッジタイプ進撃の始まりですかね。

その後、ハード路面でも威力を発揮する様になり、時代はカートリッジタイプに移行していきますが、先行したSHOWAに分があったと記憶しています。

こんな不甲斐ない時代も経験したからこそ、今のSHOWAがあるんだと思います。

次回はカートリッジタイプをご紹介したいと思います。

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