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『サスペンションとは!』上級編-Part5

今回はSHOWAの新技術であるバランスフリーフロントフォーク(BFF)について解説してみたいと思います。

「サスペンションとは!」上級編-バランスフリーという考え方

管理人は一つ前の技術であるビックピストンフロントフォーク(BPF)までは存じ上げていたんですけど、この最新のバランスフリーという技術にはちょっと驚きを覚えました。

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6.バランスフリーフロントフォークとは!

1).バランスフリーのバランスとは何を意味するのか?

これはロッド体積変化を伴うカートリッジタイプの構造に起因する圧力バランスという考え方です。

まずはこの圧力バランスについて、中級編でご紹介したサブタンク付分離加圧リヤクッション断面図を用いて解説してみましょう。その中級編はこちら

Fig.7 サブタンク付き分離加圧リヤクッションの断面図

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※Fig.7ではC/A部を端折ってますがメイン側と同じくバルブ機構があると思って下さい。

圧力バランスの定義

圧縮工程に於いてGAS室内封入圧を基準とし、TEN室圧力(Pa)がプラスになる場合を正圧、マイナスになる場合を負圧、圧力変化が少ない場合をバランスとする。

簡単に書くとGAS室圧力Psに対してTEN室圧力Paが圧工程でどのように変化するかがポイントです。

 Ps<Pa=正圧
 Ps>Pa=負圧
 Ps≒Pa=バランス

言い方を代えると圧側COMPメイン部と圧側C/A部の発生減衰力比率と考えてよいです。

 Cメイン部<CA部=正圧
 Cメイン部>CA部=負圧
 Cメイン部≒CA部=バランス

大雑把に言うと圧側COMPメイン部と圧側C/A部の発生減衰力が等しい時をバランスと呼びます。

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Bikers Station 2019年12月号 P35より引用

こちらのBikers Station 2019年12月号にも詳しく載ってますが、説明は前述の通りです。(抵抗の大きさ=減衰力と読み替えてOKです)

話をフロントフォークに戻します。

2).フロントフォークに於ける圧力バランスとは!

通常カートリッジのフロントフォークでは加圧していない場合、もしくは加圧している場合でも加圧圧力自体を低く設定しているので、キャビテーションを考慮して概ね正圧方向しかセッティング出来ないと考えて間違いないと思います。

リヤクッションの場合、分離加圧タイプであれば加圧圧力を高く設定出来るので負圧方向のセッティングも可能です。

ただ一般的に量産車に於いては、ほぼ正圧方向のセッティングと考えてよいと思います。

圧力バランス違いでの乗車インプレッション(レース用リヤクッションの場合)

乗り味としては負圧方向の方が減衰感がありながらソフトな感じとなります。
ギャップのアタリも比較的ソフトで吸収性に優れる傾向。

但し、負圧方向に振りすぎると圧工程から伸び工程に切り替わった直後にキャビテーションによる減衰力のサボリが発生し易くなります。

逆に正圧方向は口元から硬めに感じて乗り心地も硬めなイメージとなります。

正圧方向に振りすぎると減衰値の割に突っ張り感が大きくなります。

3).フロントフォークとしての圧力バランスはどうあるべき

減衰力の応答性と吸収性を考えた場合、極力バランス付近でセッティングしたいんですが、前述のキャビテーションによるサボリを嫌って正圧方向にせざるを得ない側面があります。

ただ、そんな中で圧力バランスを考慮しなくて良いのがスルーロッドタイプなんです。

スルーロッドの利点は正にこの減衰力の応答性の良さです。

特に近年のレース界ではカートリッジ内のピストンをソリッドにしてカートリッジ外に減衰力発生機構を持たせたものが主流です。

但し、この場合はカートリッジ外にオイル通路が必要になるためダブルチューブとならざるを得ないので、構造が複雑になります。

F1などは殆どこの形式のスルーロッドタイプと考えて良いです。

4).バランスフリーフロントフォークの構造

このバランスフリーって何が凄いって、現行レース界で最上位システムとされるスルーロッドタイプじゃないのにスルーロッドと同等以上の性能が発揮出来る構造になっていることでしょうか!

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Bikers Station 2019年12月号 P32 / P26より引用

上図は以前スプリングレイアウト違いでご紹介したものですが、システム的には左と中央が通常のカートリッジタイプ、右が今回ご紹介するバランスフリーとなります。

ではその構造の詳細を見ていきましょう。

カートリッジ内のメインピストンには減衰力発生機構はなく、ただのソリッドピストンとして、カートリッジを油圧ポンプとして機能させる構造となります。

もちろんですが、上のTEN室にオイルが往き来できるようにするためダブルチューブ構造となってます。

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Bikers Station 2019年12月号 P38 / P39より引用

こちらが圧工程のオイルの流れになります。

圧工程でメインピストンがストロークすると、カートリッジ内COMP室のオイルが押し出され、右図の下側COMP減衰力発生ユニットのCOMPバルブを押し開き、背面配置された上側TEN減衰力発生ユニットのチェックバルブを通過後、カートリッジ外側流路を通ってTEN室に流れます。

この時、ロッド体積増加分のオイルはCOMP減衰力発生ユニットとTEN減衰力発生ユニットの間の流路からガス室下の部屋に流れます。

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Bikers Station 2019年12月号 P38 / P39より引用

こちらが伸び工程のオイルの流れになります。

伸び工程でメインピストンがストロークすると、カートリッジ内上側TEN室のオイルが押し出され、右図の上側TEN減衰力発生ユニットのTENバルブを押し開き、背面配置された下側COMP減衰力発生ユニットのチェックバルブを通過後、COMP室に流れます。

この時、ロッド体積減少分のオイルはガス室下の部屋からCOMP減衰力発生ユニットとTEN減衰力発生ユニットの間の流路から下側COMP減衰力発生ユニットのチェックバルブを通過してCOMP室に戻ります。

5).バランスフリーのキーポイントとは!

このバランスフリーの肝は背面で直列に並んだ減衰力発生機構の間にロッド体積変化分を吸収する分離加圧タンクを設けていることだと推測します。

言い換えると圧側、伸び側の各工程共に各減衰機構の下流でロッド体積変化分を吸収することがキーポイントです。

ただ構造上、ロッド体積分の若干の内圧変動は出ますが、加圧構造である事を考えれば気にならない範囲だと思います。

この概念を考えた方は素晴らしい思考の持ち主ですね。

手っ取り早く言えば、わざわざスルーロッド構造にしなくても、同様の特性が得られる訳ですから…。

スルーロッド構造だと、サスストローク分のロッド長を吸収出来るように下端にスペースが必要になり、その分どうしてもレイアウト上の制約が出易くなります。
併せて、下側のロッドにも軸受けとシール構造が必要になり、上下のロッドとピストンで3点支持となり、一体構造として精度を上げないとフリクションが増加し易くなります。

こちらが冒頭に申し上げたスルーロッドと同等以上の性能が発揮出来る構造の所以です。

6).スラパイのエメラルドコーティングとは!

あとこのフロントフォークで特徴的なのはスライドパイプ(スラパイ)の表面処理です。

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Bikers Station 2019年12月号 P47より引用

SHOWAではエメラルドコーティングと呼んでいるそうですが、多分Ti-Oだと思います。

情報だと作動性と耐久性に優れるとのことです。

スラパイの表面処理と言えば下記2種類が有名ですね。

 ゴールドカラーのTi-N(窒化チタン)コーティング

 ブラックカラーのDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング

そして今回のエメラルドカラーのTi-Oとは酸化チタンコーティングとなります。

管理人はトライアルのフロントフォークでこの酸化チタンコーティングの市販化を仕掛けた一人でもあります。

ただトライアルはレインボーカラーを出すためにTi-Oの膜厚を変化させてましたが、こちらのエメラルドコーティングはTi-Oの膜厚を一定にしてエメラルドカラーとしているようです。光の加減で微妙に色が変化するのがまた美しいです。

でもって、どのコーティングがベストとかは加工方法と仕上げでも変わるようです。

この辺りは各メーカーの企業秘密の領域となり、うかがい知る事は出来ませんが…。

一つ言える事は、表面処理の仕上げ精度を上げていっても、一概にフリクションが下がるとは言い切れないということです。

摺動部にオイルシールが存在する以上、油膜は必要であり、如何にオイル洩れさせないで油膜を確保させるかがキーポイントだと思います。

あとがき

さてそんな事を書いていたらもう3500字を超えましたが、この上級編とかって括りにすると気合を入れないと書けないんですよね。

なのでどうしても更新間隔があいてしまいがちになります。

そこで、そろそろ上級編だとかの括りは終わりにしてもう少し気楽に書かせて頂こうかと思ってます。

kazySUS