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『サスペンションとは!』上級編-Part2

今回も上級編として引き続き、2輪車のフロントサスペンションをお届けします。

2023.10.27一部改訂しました。

「サスペンションとは!」上級編Part2

昨年、12月に雑誌に於いて2輪サスペンションの特集が組まれた事もあり、2輪車のフロントサスペンションの構造を引き続きご紹介させて頂きます。

1.2輪車のフロントサスペンションとは!

今回は前回のお約束通り、カートリッジタイプについて書いてみたいと思います。

3).カートリッジタイプとは!

フロントフォークのカートリッジタイプとは、ざっくり言うと中級編でご紹介したロッドタイプのリヤクッションを逆さまにしてフロントフォークの中に収めた構造と考えて頂けると分かり易いと思います。

それからカートリッジタイプを学ぶ上では、初級編Part2でお話した「ロッド体積変化」というキーワードが重要になりますので、まずはそちらと中級編のリヤクッション構造概念を頭に入れてからお読みになることをお勧めします。

susmania.hatenablog.jp

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それではカートリッジタイプの構造編スタートです。

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Bikers Station 2019年12月号 P32より引用

前回ご紹介したフリーバルブより構造が複雑になってますが、前述したロッドタイプのリヤクッションが内蔵されている考えればそれほど難解ではないと思います。

では実際の圧側と伸び側工程について、圧力変化とオイルの流れによる減衰力について学んでみましょう。

尚、右図オイルの流れは、正立フォークでの説明となっていますが基本的に同じです。

カートリッジタイプの減衰力発生メカニズム

まずロッドですが、左側の断面図の通り、フロントフォーク上部にあるフォークボルトに上端を固定されているためフロントフォークのストロークに対してリニアに追従します。

ロッド下端にはメインピストンを含むメイン側減衰発生機構が取り付けられています。

圧側工程ではカートリッジ内のメインピストンで仕切られたCOMP室(ピンク)からTEN室(青色)へ差圧によりオイルが流れます。

この時、メイン側ピストンに積まれた積層バルブを押し開く事によりメイン側減衰力が発生します。
と同時にロッド体積変化分のオイルがカートリッジ下側のC/Aピストンの積層バルブを押し開いてカートリッジ外に流れることでC/A側減衰力が発生します。

厳密には両ピストン共に2乗孔と呼ばれる小さな穴を設けているので、圧側/伸び側共にピストンスピードの遅い領域(動き始めなど)はそちらを通ります。

そしてピストンスピードが上がるとブローポイントと呼ばれる領域を境に積層バルブを押し開いてより高い減衰力へと移行していきます。

続いて伸び側ですが、カートリッジ内のメインピストンで仕切られたTEN室(ピンク)からCOMP室(青色)へ差圧によりオイルが流れ、メイン側ピストンに積まれた積層バルブを押し開く事により伸び側減衰力が発生します。
と同時にロッド体積変化分のオイルがC/Aピストンのチェックバルブを通り、COMP室(青色)に戻ってきます。伸び側ではC/A側の減衰力はほとんど発生させずメイン側のみの減衰力となります。

要するに圧側工程ではメイン側とロッド体積変化を活用したC/A側の両方が減衰力を発生させますが、伸び側ではロッド体積変化は活用せずメイン側のみの減衰力しか発生させない構造となっています。

これは後述のよもやま話にもちょっと関連するのですが、伸び側工程ではCOMP室(青色)の圧力が低くなっており、ここでC/A側の減衰力を発生させると更にCOMP室の圧力が低くなり、次に切り替わった圧側工程でさぼりが発生し易くなるためです。

カートリッジタイプのピストン形状

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Bikers Station 2019年12月号 P33より引用

まずは、ピストンがどうやって圧側と伸び側の流路が成り立っているかと言うと、上図の様に積層バルブ面と反対側の流路に段差を設けることで双方向共に積層バルブとすることが可能になってます。

要するに一つ置きに圧側と伸び側の流路になる訳です。

その積層バルブ面の形状ですが、楕円含む円形状の他に扇型(右上:W3形状)、平行型(右側左下:S4形状)、逆三角型(右側右下:V6形状)などが求める特性に応じて使い分けられます。

濡れぶちと呼ばれる通路外縁の幅と形状でも特性が異なります。

一般的には、濡れぶちの幅が狭い方が張り付きが少なく、特性上もリニアになるのでレース専用品はほとんどそのような形状になります。

穴形状では、平行より扇形状の方が同じ積層バルブの積み方でも開き易く、積層バルブ領域が増した感じの傾向にあるようです。

それから減衰力の設定は、積層バルブの外径と板厚で変更します。ピストンに接している方が低速域をコントロールし、積み上がっていくに従い、中速域から高速域の領域となります。最後の分厚い最終シートの外径で全体の減衰力値が決まります。

この辺りのピストン選択と積層バルブのセッティングはテクニシャンの経験と腕の見せ所でしょうかね。

でもって、ここで紹介されているピストンはおそらくレース専用だと思われます。

特に右側左下のS4形状などは連通溝と高速孔も備え、且つピン角なので、レーザーカット加工でしょう。

また積層バルブ面から高速孔までの距離が短く、積層バルブに当てるオイルをコントロールしているようにも見受けられますので、かなりレアな形状のピストンです。

カートリッジタイプのメリット

ピストン形状及びバルビングにより減衰力特性の自由度が高く、より高いセッティングニーズに対応することが可能。

メイン側ピストン及びC/A側ピストン部に各々2乗孔アジャスターを設けて減衰力可変とする事が可能。

カートリッジタイプのデメリット

フリーバルブに比べて構造が複雑になるため、コストが高い。

カートリッジを収めるため、ある程度のフォークサイズでないと成立しない。

一般的に採用しているのは、スポーツモデルの正立及び倒立フロントフォーク装着車でフォークパイプ径が41mm以上という辺りでしょうか。

高級スポーツモデルだと前述の圧側及び伸び側に減衰力可変機構を設けたものもあります。

カートリッジタイプの進化版

これの進化版としてバランスフリーFRフォークやスルーロッドタイプが存在しますが、バランスフリーは既に市販車装着されています。

さて今回は、ちょっとマニアックなピストンの話とかになりましたが、最後にちょっと息抜きがてらに昔話をご紹介して置きます。

カートリッジよもやま話

カートリッジタイプ全盛時代のとあるロードレースの世界でのお話です。

兎角、技術者というものは目の前にある正論を信じて疑わないものです。
減衰力といえばキッチリさぼりなく発生することが理想と考えますよね。

勿論、管理人もそう考えて疑わなかった一人です。

それは以前から気になっていたとあるメーカーのフロントフォークをテストした時のお話です。

そのフロントフォークの減衰力特性を見ると標準的なカートリッジタイプに対してかなり高く、アジャスターの可変幅はというと1クリックで変化する量が半端ない。

乗る前はよくこれでレース用とか言うよなぁとか思ってました。

乗ってビックリ。凄く減衰感があってしっとりとした動き!

今までとは異質だけどしっくりくるこの乗り味はなんなんだと感じたのを覚えてます。

でもって、調べてまたビックリ!

ループ特性の切り替わりで微妙に減衰がさぼっているではありませんか。

敢えて消泡性の劣るオイルを使い、エアレーションを起こして、細かな泡を発生させる。

そうすると、なにが変わるかと言うとちょっと遅れて減衰が立ち上がるわけですよ。

これが妙に人間の感性に合うんです。

減衰力が高いと、普通は固く感じるんだけど、ちょっと遅れて徐々に減衰が出てくると絶対値が高くても固く感じなくて、いい感じなんです。

要するに「逆もまた真理なり」を身をもって体感したわけです。

こういう事があるから、技術屋って面白いんですよね。

でもって、その後このフロントフォークはどうなったかって?

このとあるフロントフォークなんですが、評判は良いんですけど、実際にセッティングすると良いと感じる幅が意外と狭いんです。

イメージで言うと、どこのサーキットに行っても最初から7割レベルなんですけど、セッティングを更に積み上げようとしても上がらないんですよ。

アジャスターの位置とか、ほとんど選択肢が限られているし、最初からそこそこ走れるんだけどコースに合わせてベストセッティングした他のフロントフォークには及ばないことが多い。

結局は元のフロントフォークに戻したってオチですね。

でもって、その後、そのとあるフロントフォークメーカーはしっかり減衰を出す方向に向かいましたとさ。