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『サスペンションとは!』中級編

今回から「サスペンションとは!」中級編です。

「サスペンションとは!」中級編

前回までの初級編では反力とダンパーの役割や構造概念を学びましたが、今回の中級編ではもう少し理解を深めるべく、より細かなところまでのお話をしたいと思います。

1.ロッド体積変化を含めた反力特性

前回の初級編ではスプリングとイニシャル量によるスプリング反力を学んで頂きましたが、ストラット式に採用されるロッド式ダンパーではロッド体積変化分の反力と窒素ガスを封入した場合のGAS反力を加味する必要があります。

Fig.6 クッション反力特性

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黒線が綺麗な比例特性を描くスプリング単体の反力特性です。赤線はスプリング特性にGAS反力とロッド反力を加味したクッショントータルとしての反力特性となります。

因みに黒線に対して赤線のストローク”ゼロ”位置である縦軸上の差が窒素ガス封入によるGAS反力分となります。

ロッド反力はストロークすることで反力が増加するのでご覧の通り、スプリングだけの比例特性よりちょっと立ち上った特性となります。

2.減衰力特性

さてここからはいよいよ減衰力特性について学んでゆきたいと思います。

下記が4輪量産車の減衰特性です。

減衰力特性

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(C) 2009 PLOT Co.,Ltd. All Rights Reserved.
PROT 「DF ショックアブソーバー」より引用

縦軸に減衰力(N)、横軸にピストンスピード(m/s)とした場合の減衰力特性となります。

上側が伸び側、下側が圧側(※1)となります。※1 図中では縮み側と表現

この特性図ではノーマル車用とアフターパーツ品が比較出来る様に併記されてますが、アフターパーツ品は伸び側、圧側共に減衰力を高く設定されているのが分かります。

ここで重要なのが、伸び側と圧側の減衰力値の違いですね。
圧側はスプリング反力が荷重としてストロークを押える方向に働くため、低めに設定されます。
対して、伸び側はスプリング反力が減衰力に反発する方向に働くため、高めに設定されます。

一般的に伸び側は、圧側の1.5~3倍くらいの値に設定されていると考えて下さい。

それからもう1つ大事な事として、減衰力はピストンスピードに依存するという事を頭に入れておいて下さい。

3. 2輪スポーツモデルの分離加圧リヤクッションの構造概念

今回は、より構造が複雑な2輪スポーツモデルのリヤクッションを説明したいと思います。

現行の2輪上位スポーツモデルには量産仕様でも4輪量産車に比べて、より高性能な減衰力可変機構を装備したクッションが採用されています。

そんな圧側と伸び側に減衰力可変をそなえたサブタンク付き分離加圧リヤクッションの構造とはどうなっているのでしょうか?

1).構造断面

Fig.7 サブタンク付き分離加圧リヤクッションの断面図

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これが2輪車のスポーツモデルに採用されているサブタンク付き分離加圧リヤクッション内部構造の概略図です。

2).減衰力発生機構

このリヤクッションの減衰力発生機構はFig.6のMAIN部(青で囲まれた部分)とC/A部(赤で囲まれた部分)です。C/A部含め細かい所は端折ってますがご容赦下さい。

■部:MAIN系
・ピストン上側:TEN VALVE(引き側バルブ)機構
・ピストン下部:COMP VALVE(圧側バルブ)機構
・ロッド部ニードル:TEN ADJ(引き側可変アジャスター)

■部:C/A(Compression Adjuster)系
・ピストンGAS室側:COMP VALVE(圧側バルブ)機構
・ピストンユニット側:TEN(引き側)チェックバルブ機構
・C/A部ニードル:COMP ADJ(圧側可変アジャスター)

減衰力発生機構としては構造的に上記6つの部分で構成されています。
GAS室には減衰力安定のために、通常0.5~2.5MPaの窒素ガスが封入されています。

3).COMP行程での実際の動きとオイルの流れ

圧側(COMP)行程ではユニット上部のCOMP室からTEN室にMAIN PISTONの圧側バルブを押し開いてオイルが流れます。
合せて、ロッド体積変化分のオイルがC/A部の圧側バルブを押し開いてC/A室に流れます。同様にオイルが圧側可変アジャスター孔を通ってC/A室に流れます。
この時、MAIN系とC/A系の2系統で減衰力が発生する事になります。

このMAIN系とC/A系の減衰力依存度は一般的に半々~3:7くらいに設定されますが、この依存度を変える事でCOMPトータルしての減衰力値が同じであっても乗車フィーリングを微妙に変える事が出来ます。

圧側減衰力の調整はC/A部ニードルで可変させます。ニードル可変を絞め込むと減衰力が高くなり、緩めると減衰力が下がります。

4).TEN行程での実際の動きとオイルの流れ

一方、引き側(TEN)行程では、C/A室から戻るオイルはTEN(引き側)チェックバルブを通るためC/A部では減衰力はほとんど発生しません。
TEN室からCOMP室にMAIN PISTONの伸び側バルブを押し開いてオイルが流れることで発生するMAIN側減衰力が伸び側減衰力のほとんど全てとなります。

この様に圧側はMAIN部とC/A部の双方で発生させるのに対して伸び側はMAIN部だけになります。

初級編でご紹介した4輪車ダンパーでは圧側はベースバルブかメインピストンのいずれかのみであったのに対して2輪スポーツ系の場合はより積極的に双方を利用する設定となっています。

5).ロッド体積変化を活用する事での機構上の制約

上記の様な設定にするのには理由がありますが、大きく分けて次の2つでしょうか。

減衰力の安定化

C/A部の圧側減衰力依存度が下がると機構上、圧行程でCOM室に対してTEN室の圧力が下がり易く、圧行程から伸び行程への切り替わりで減衰力のサボりが出やすくなる。

極端に言うと圧行程でTEN室に負圧による微小の泡が発生し、伸び行程に切り替わった直後では圧力が回復してその泡が消えるまで減衰力が発生しない現象が起こります。
従って、減衰力を安定させるためにCOMP室とTEN室の圧力差を少なくしたい。

圧側アジャスターの可変幅適正化

このC/A部をニードル可変だけにした場合は、ロッド体積変化分で移動するオイルを規制し過ぎてCOMP室とTEN室の内圧が高くなり過ぎます。
合せて、圧側アジャスターの1クリック辺りの変化が大きくなり過ぎます。

従って、断面図ではC/A部を省略して書いていますが、そこにもC/Aピストンと呼ばれるメイン側と同じ様なバルブ機構が備わっており、大凡の減衰力はそちらで受け持っています。

これにより圧側アジャスターの可変幅を少なくしています。

ちょっと難しい話になってきましたので、この辺りの説明は別途とさせて頂きます。

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