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『サスペンションとは!』初級編-Part2

今回は「サスペンションとは!」初級編のPart2としてダンパーの構造について書いてみたいと思います。2023.10.27一部改訂しました。

「サスペンションとは!」初級編-Part2

前回でダンパーの役割はほぼ理解出来たと思いますので、いよいよダンパーの内部構造について学んでゆきたいと思います。

3.油圧機器としてのロッド式ダンパーの特徴

まず最初に理解度を深めるために簡単なテストをしてみたいと思います。
難しい問題ではなく、図を観てよーく考えて、理解して貰えれば良いです。

では最初の問題です。

Fig.3 ダンパーの断面図-1

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これは油圧機器であるダンパーの断面図です。

ユニット内(ピンク)にオイルが充填された状態で摺動部はシールされており、オイルは洩れないと仮定します。
上部マウントのa点が固定され、ピストン及びロッドがエンドピースに結合されたb点を上下動させます。
更に左のダンパーのピストンには連通孔はなく、右のダンパーのピストンには連通孔がある場合では、左と右のダンパーは各々で動きますか?それとも動かないでしょうか?

正解はこちら

正解された方も不正解の方も、しっかり内容を理解されましたでしょうか?

続いての問題です。

Fig.4 ダンパーの断面図-2

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前述と同じ条件でユニット内の上部にエアー(ガス)室を設けた場合、このダンパーは動きますか?それとも動かないでしょうか?

もちろん、左右共に動くと答えた方が正解です。
そう、理由は「ロッド体積変化を吸収出来る」からです。←これが今回のテストの最重要ポイントなんです。

このタイプのロッド式ダンパーではロッド体積変化を吸収するエアー(ガス)室を設けないとダンパーとして成立しないと覚えておいて下さい。

もうお分かりだと思いますが、補足説明させて頂くと、Fig.3は構造上、動かないのでダンパーではありませんね。

種明かしをしたので、簡易的ダンパーであるFig.4を少し説明して置きます。

Fig.4の左側は気液が分離していないタイプです。
気液同室(エマルジョン)タイプと呼ばれるこのタイプは、オイルの中に上部のエアーが混入し易く、減衰力を高く設定すると減衰力が安定して発生しにくい構造となります。

当然ですが、上部にエアーを混入させる構造であり、取り付け方向も制限されます。
なので比較的安価な小型の2輪車用リヤクッションに使われる事が多いですね。

続いてFig.4の右側ですが、ブラダと呼ばれるゴム製の隔膜で気液を分離させたタイプで気液分離タイプと呼びます。
他にフリーピストンと呼ばれるもので気液分離するタイプもあります。

この気液分離タイプは、安定して減衰力を発生させることが出来ますので、一般的なダンパーとして多く用いられます。

合せて、窒素ガスを加圧封入する事で、より高い減衰力でも安定して性能を発揮するGAS加圧タイプも存在します。

ちょと余談ですが、ロッド体積変化を考慮しなくて良いダンパーとしては次のスルーロッドタイプがあります。

Fig.5 スルーロッドタイプの断面図

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このスルーロッド(Through Rod)タイプは上下のロッド径を同じにする事で、ロッド体積変化をキャンセルする事が出来ます。
このタイプでよくお目にかかるのがレース用2輪車のステアリングダンパーです。

エアー室が不要なので横置きでも使用出来ますが、ロッド・ピストン・ロッドと3箇所でのシール性確保が必要であり、この3つの同軸度が低いとフリクション(摺動抵抗)が出易く、且つ、構造上ダンパーの全長も長くなるので量産車には不向きな構造と言えます。

ただこのスルーロッドタイプは、全長が長くなるデメリットもありますが、減衰力の応答性に優れたシステムであり、性能追求型と言えます。

従って、現在の2輪・4輪レースのトップカテゴリーであるMotoGPやF1では、このスルーロッドタイプが主流になっています。

こちらのスルーロッドタイプは上級編でまた詳しく解説をしたいと思います。

4.実際のストラット式ダンパー構造

では実際の4輪車のストラット式の内部構造を説明してみたいと思います。

1).複筒式の構造概念

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出典:KYB CLUB ショックアブソーバの構造

これが4輪車で多く使われているオーソドックスな複筒式です。

前述のテスト問題とは上下が逆になりますが、基本的な考え方は同じくロッド体積変化を外筒部分のリザーバ室で吸収する構造です。

圧側行程では、複筒内部から外筒部分へとロッド体積変化分のオイルがベースバルブと呼ばれる所を通過する事で減衰力を発生させます。
この時にピストンを通過するオイルはワンウェイチェックバルブにてスムーズに流れるため減衰力はほとんど発生しません。

逆に伸び行程では、上部からピストンに設けられたバルブ機構を経て下部へとオイルが通過する事で減衰力を発生させます。
この時、オイルはベースバルブのワンウェイチェックバルブにてスムーズに戻るためこの部位では減衰力はほとんど発生しません。

この様に複筒式は圧側行程と伸び側行程で主に減衰力の発生させる場所が異なります。

このタイプの利点としては、設定出来る長さの自由度が高く、2重構造であるため外筒への石はねなどのタフネスが高いことが上げられます。

逆に欠点としては2重構造であるため、ピストン径を大きく設定出来ないため単筒式に比べて減衰力の応答性や自由度が不足する傾向にあります。

2).単筒式の構造概念

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出典:KYB CLUB ショックアブソーバの構造

こちらのタイプはテスト問題の気液分離タイプに近い構造でロッド体積変化をフリーピストンで吸収する構造となっています。

こちらの単筒式では圧側行程も伸び側行程もピストンを通過するオイルで減衰力を発生させる構造となります。

複筒式に比べてピストン径を大きくとれるため、減衰力の応答性とセッティング自由度が向上します。

構造も至ってシンプルで放熱性にも優れ、チューニングもし易いため、スポーツ指向のクルマに採用されています。

サスペンションキットと呼ばれるアフターマーケット製品もこちらを採用することが多いです。

今回の初級編はこれで終了ですが、クッションの概念及び構造については大凡お分かり頂けたかと思います。

次回は「サスペンションとは!」中級編をお送りする予定ですが、ちょっと整理する時間を頂くつもりです。

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